- 2025年8月16日
人畜共通感染症ジアルジアとは一体何か?①疫学について。
ジアルジアという感染症をご存知でしょうか。犬猫を飼育している方や動物に関するお仕事をしておられる方はご存じの方もいらっしゃると思います。最近、私の知り合いでジアルジア感染症が問題になったのでまとめてみました。
ジアルジア(Giardia lamblia)はランブル鞭毛虫とも呼ばれる虫です。熱帯地域などの発展途上国で 割とみられるようですが、人間における国内での推定感染率は0.08%とされ現在の日本では日常臨床の現場で遭遇することはほとんどありません。症例報告ベースで若干の報告がある程度です。
一方で犬の疫学(感染率など)はどうでしょうか。人間と違い様々な報告がなされておりいくつか紹介したいと思います。
日本国内の繁殖施設やペットショップで飼育されている 犬の調査では,繁殖施設内で飼育されている犬 361 頭を対象とした調査では、全体の抗原陽性率が 37.4 %(135/361)と高く、1ヶ月から8歳までの幅広い年齢層から抗原が検出されたが 1ヶ月から7ヶ月未満の抗原陽性率 50.0%(42/184)は7ヶ月以上の33.5%(93/277)に比較して有意に高かったと報告されました。幼い子犬の方が感染率が高いのは確かですが、7ヶ月を過ぎてもなお3頭に1頭が感染しているという、高い数字に驚きました。
また、日本国内のペットショップで販売目的に飼育されている子犬の感染率について調べた論文によると、3 ヶ月以下の子犬 1794 頭の調査では、抗原陽性率が 23.4 %(420/1794)でありペットショップ間で陽性率に差のないと報告されています。
一方で家庭で飼育されている犬の感染率を調べた報告では、一般家庭で飼育されている犬 2365 頭を対象に実施された調査では8.3 %(196/2365)が抗原陽性であり、特に6 ヶ月以下の陽性率は 31.5 %(142/451)で7 カ月齢以上の 2.3 %(54/1914)に比較して有意に高い事がわかりました。
論文が違うのでまとめて考えることはできませんが、あくまで傾向としてにはなりますが、繁殖施設>ペットショップ>>家庭の順に感染率が高いことが推測されます。そして、月齢が進むにつれて陽性率が下がること傾向にあります。それらの理由としては、①多頭飼育だと、治療して治ってもすぐに他の犬から貰ってしまう可能性がある。飼育頭数が少ない環境の方が感染のコントロールが容易になる。②未熟だった腸管免疫が成長と共に発達し自己免疫でジアルジアを駆逐することが出来るようになる。この2つの理由によって家庭に迎えた犬はたとえ発症しても治癒する可能性が極めた高いと考えられているのです。
ボリュームが多いため、今回はここまでにします。次回以降は、感染経路、治療法、家での管理方法、人畜共通感染症と言われる理由などをお伝えしたいと思います。
文責:医療法人社団南州会 理事長 井上哲兵
経歴
2009年聖マリアンナ医科大学医学部卒業後、同大学研修医、同大学呼吸器内科、国立病院機構静岡医療センターにて研鑽を積み、2019年4月医療法人社団南州会理事長就任。同年8月三浦メディカルクリニック開院。2024年5月横浜フロントクリニック開院。
資格・役職
医学博士・日本内科学会認定内科医・日本呼吸器学会呼吸器専門医・日本呼吸器内視鏡学会気管支鏡専門医
日本医師会認定産業医・厚生労働省認定臨床研修指導医・身体障害者福祉法第15条指定医(呼吸器)
難病法における難病指定医(呼吸器)・緩和ケア研修会修了医