• 2024年7月6日
  • 2024年7月7日

ぜんそくと診断されたら読む本③

たばこはゼロにする

ぜんそくの人にとって、たばこを吸うことは症状を悪化させる大きな要因になります。百害あって一利なし、リスクしかありません。
たばこの煙には4000種類以上の化学物質が含まれており、そのうち200種類以上が有害物質、約60種類は発がん性物質です。喫煙するということは、ニコチン、タール、一酸化炭素といった有害物質を気道に直接注入しているのと同じです。ぜんそくの症状は間違いなく悪化します。いくら吸入ステロイド薬を継続して服用していても、ぜんそくコントロールは安定せず、最終的には非常に重篤な状態になります。
喫煙者にこのように伝えると、「私は1日に1本だけしか吸っていないので大丈夫です。「私は外食のときだけ吸います。1カ月に数回ですから問題ないでしょう」と言う人がいます。しかし、残念ながら間違いです。たばこはたとえ1本でも吸っていれば、ぜんそくを悪化させてしまうのです。
私のクリニックにもたばこを吸っている患者が来ます。その多くの人が、たばこをやめればぜんそくの症状が良くなると分かっていても、禁煙できずにいます。禁煙できない理由は、ニコチン依存症だからです。禁煙できない人はよく、「たばこを吸うのが習慣化してしまっているから」「日常のストレスの解消になるから」などと言うのですが、 たばこをやめられないのは、ニコチン依存が原因です。
たばこを吸うとニコチンの血中濃度が数秒で一気に上がります。すると、急激にストレス がなくなる感覚になり「たばこを吸うと気持ちがいい」と感じるのです。しかし、たばこが一時的に吸えなくなると、イライラ、ソワソワし、集中力がなくなるような感覚に襲われます。 これはニコチン血中濃度の低下に伴う現象です。そして、イライラを感じないように無意識の うちに次のたばこへ手が伸びてしまうのが、ニコチン依存です。禁煙したいのにできずに悩ん でいる人は、「自分はニコチン依存だ」と認識することが禁煙への第一歩となります。
例えばこれはある30代の男性の一日です。
彼の一日は、朝起きるとすぐに1本のたばこを吸うことから始まります。朝食を終え身支度を整えるとまた、1本吸います。会社に着くと始業前までの時間は喫煙スペースで過ごすのが定番です。昼休みに一息つくと、午後の仕事に備えてまた1本吸います。3時の休憩時間は、喫煙スペースでたばこを吸いながら同僚との歓談を楽しみます。長い一日の仕事を終え、会社を出る前にまたもう1本。さらに帰宅後も夕食後や風呂上がりにテレビを観ながら、何本か吸います。「そろそろ眠たくなってきたな」という時間が来れば、最後に1本吸って就寝します。彼の状況は、明らかにニコチン依存です。ニコチンの血中濃度が落ちるタイミングで、次の ニコチンを無意識に欲してしまい、たばこに手が伸びてしまっているのです。おそらく寝起き の1本は彼にとっては毎朝の儀式のようなものです。仕事前に量が増えるのは、一日のストレ スに備える準備ともいえます。仕事の途中もリラックスや解放感を求めてたばこに手が伸びて います。ニコチンへの強い依存がうかがえます。仕事を終えたあともさらに解放感を求めて、 たばこが手放せないのです。彼の一日はたばこを吸うことによって区切られ、生活の一部になっ てしまっているのです。
これほどたばこの量が多いと、ぜんそく症状を悪化させるだけでなく、将来的にはCOPDを合併する可能性も出てきます。COPDとは簡単にいえば喫煙によって肺の正常構造が壊れてしまい、元に戻らなくなってしまう病気です。喫煙によって肺の構造が壊れてしまうと再生
することはありません。肺は肝臓のような再生臓器ではないのです。ぜんそくとCOPDを合併すると、どちらも悪化し、非常につらい症状を抱えることになります。そのような将来が、30年後にツケとして回ってくるのです。では、たばこの本数を減らせばよいのかといえば、そうではありません。減らすだけではダメなのです。たばこは基本的に1本でも吸っていると身体に悪影響を与えます。大事なのは、ゼロであることです。
実際、たばこの量は減らしたという人の様子を見ていると、一時的に減らしたものの、やは りニコチンの離脱症状が出てイライラが募り、最終的にまた元の量に戻るケースが多く見られ ます。「電子たばこにしました」という人もいます。しかし、電子たばこも通常のたばこと比 べて有害性は変わりません。むしろ、通常の紙巻きたばこより電子たばこのほうが一部の発が ん性物質が多いこともデータでは明らかになっています。量を減らしたり、電子たばこに変え たりするのではなく、きっぱり禁煙することが何より大切です。
禁煙をするには、徐々に減らすのではなく、すっぱり断ち切るほうが成功する可能性が高くなります。禁断症状は強く出るので、一時的にはつらいですが、たばこをやめられる可能性は高まります。
すっぱり断ち切るためには、たばこを吸えない環境をつくることです。喫煙欲求は、たばこ を吸いたいと思ってから 10~15分がピークだといわれています。たばこを吸いたくなる状況を 把握し、欲求が高まるこのピークの時間にたばこが吸えない環境に身をおくようにするのです。
例えば、朝起きてすぐ一服したくなる人は、たばこの代わりに歯ブラシを持って磨きます。
朝食後も吸いたくなれば、もう一度歯を磨くか、あるいはすぐに会社に向かいます。仕事の休 憩時間に吸ってしまう人は、喫煙所には行かず、禁煙スペースのデスクに残るようにします。 また、コーヒーを飲むとたばこを吸いたくなるという人はコーヒーではなく、水や炭酸水を飲 むのもよいアイデアです。夕食後にたばこを吸いたくなったときは、風呂に入ってしまいます。 このような形で喫煙欲求が出てからの 10~15分にたばこを吸えない環境を無理やりつくるのです。 この時間を乗り越えることができれば、それ以降は吸わない状態を比較的楽に感じられます。

禁煙の必要性と方法
・たばこは4000種類以上の化学物質を含んでおり、気道に有害物質を直接注入している のと同じことです。たとえ日々の喫煙量が少なくても、その1本がぜんそくの症状を劇的 に悪化させる力をもっています。禁煙は、ぜんそくの症状を軽減させ、生活の質を高めるために不可欠な選択と理解します。
・禁煙するための第一歩は自身がニコチン依存症だということを認めることです。禁煙する と日々のストレスに耐えられないという認識が間違っていることを自覚します。たばこを吸うとニコチン血中濃度が急速に上昇するためストレスがスッとなくなった気がしたり、落ち着いた気分になったりします。しかし、数時間するとニコチン血中濃度が下がり始め、 ソワソワしたり、集中力が切れた気がしたりするなどの離脱症状が現れます。そして、ま た喫煙すると気分が落ち着く気がしますが、このサイクルをしっかりと認識しそれを断ち 切ることが大事です。

動喫煙を避ける
たばこの煙には、喫煙者本人が吸い込む主流煙と、たばこの先から出る煙である副流煙があります。実は周りの人が吸ってしまう副流煙のほうが、より多くの有害物質を含んでいるといわれています。たばこを吸う人は、自分だけでなく周囲にも影響を与えていることを認識する必要があります。
そして、たばこを吸わない人は、自分が吸っていないから大丈夫なわけではなく、家族や職場などに吸っている人がいれば、影響を受けている可能性が高いです。できるだけ喫煙者がいないスペースで過ごすようにします。家族に喫煙者がいる場合は、話し合って禁煙してもらうことです。
実際、夫婦二人暮らしの家庭で、夫が喫煙者であるために、妻がぜんそくを発症し、悪化したというケースがよくあります。また、親が喫煙者の場合は子どもへの影響がもっと大きくなります。親が家の中でたばこを吸うということは、子どもに副流煙を強制的に吸わせていることと同じです。今はぜんそくの症状が出ていなくても、成長とともにぜんそくを発症するリスクが高まります。すでに子どもがぜんそくの場合は、重症化を招きます。
喫煙者に家族がぜんそくもちだからと禁煙を勧めると「家の中では吸っていない」「吸った としても、一人のときだけ」「吸うのはベランダや換気扇の下と決めている」と口をそろえて いいます。しかし、これで大丈夫と思っていたら、それも大間違いです。たばこを吸った人の 吐く息の中にはたばこの有害物質が多く含まれており、喫煙後1時間程度続くことが分かって います。また衣服には、煙から出た有害物質が沈着しています。換気扇の下で喫煙したあとす ぐに子どものいるリビングに戻ってきたら、吐く息の中に有害物質が混ざっていて、子どもが それを吸い込んでしまいます。これは子どもの前で吸っているのと同じです。ましてや子ども が乳幼児の場合は、抱っこをした際に大人の服に子どもが顔をこすりつけてくることもあり、 大量の有害物を吸ってしまうことになります。乳幼児突然死症候群のリスクも上がります。
喫煙者が家族に一人いるだけで、子どもはたばこを約1本吸っているのと同じだとする報告もあります。大人の体格でも1本吸っただけで悪影響が出るのに、子どもの体格ではより重篤な影響が出るのはいうまでもありません。禁煙ができないという人は、禁煙外来の利用や専門家の支援を受けることが有効です。
私のクリニックでも、禁煙外来を行っています。これまでの喫煙歴をお聞きして、治療が必 要と判断したら、「ニコチンパッチ」などの禁煙補助薬を処方して経過観察するために通院し てもらいます。生活指導を含めたアドバイスも適宜、行っていきます。
喫煙習慣というのは、これまでは本人の意思による嗜好品の摂取と思われてきました。しか し、今では深刻なリスクを伴う薬物依存だと考えられるようになっています。ニコチン成分に よる作用は、脳や体への快感による身体的依存と「ほっとする」「すっきりする」といった心 理的依存の両方です。喫煙はただの嗜好的な習慣では済まされません。
特に、ぜんそくと診断された人にとって、禁煙は必須です。禁煙までの過程は困難かもしれ ません。私も多くの患者を診てきましたが、ニコチン依存を断ち切って、禁煙をするというの は決して簡単なことではないと実感しています。しかし、禁煙は健康への大きな一歩となります。
10年後、20年後の将来を棒に振ってまで、あなたは喫煙を続けるのですか?

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